『熱波』、狂おしき情熱の記憶。

2013.7.11 11時45分
(C)O SOM E A FÚRIA, KOMPLIZEN FILM, GULLANE, SHELLAC SUD 2012
熱波メイン1

魅力的な白黒映画が新作公開されます。おそらく今年の上位に入れる人もいるでしょう。

 

ドイツ映画界およびサイレント映画の巨匠、F・W・ムルナウ(『吸血鬼ノスフェラトゥ』『都会の女』)の1931年の遺作『タブウ』が、ポリネシア男女の恋愛と戒律違反をモチーフに楽園の喪失を描いていますが、その相似性と同時に、独創性を感じさせるのが、ポルトガルの俊英、ミゲル・ゴメス監督の『熱波』、原題が『TABU』。白黒ですが、新作です。

 

2部構成に分かれている本作は、第1部が楽園の喪失、第2部が楽園となっています。現代のポルトガル、リスボンに生きるキリスト教徒の中年女性とその隣人の気難しい老女、そして彼女に仕える黒人メイドの物語が第1部、ある男が語る、その老女の過去を描いたのが第2部という構成。しかもモノクロ、スタンダード。

 

本作、展開としては、正直よくありがちな物語なのだが、恐ろしいまでに我々の心を掴んで離さない。その最大の要因は、第2部にあります。

 

老女の過去を語る老人のナレーションで構成されている第2部には、台詞がない。正確には、作中で人物たちは喋ってはいるのだが、台詞は聞こえてこない。モノクロ、スタンダードで、ほとんどサイレント映画のような佇まいで描かれたのは、禁断の愛に燃え上がる若い男女の狂おしいほどの情熱。静かな画面から伝わる強い愛。この対比的構図が見事。

 

この第2部で語られる過去、楽園は、基本的には、ひとりの男の語りによって成り立っている。内容がどこまで真実なのかもわからない。イメージはいつだっておぼろげなものだ。第1部を35mmフィルム、第2部を敢えて16mmフィルムで粗く撮っているのも、きっとそういう理由もあるだろう。それを組み込んだ上で、モノクロ、準サイレントで描いた主観的で不確かな記憶こそが、当時の甘美と共に苦味をノスタルジックに醸し出し、禁断の情熱の先にあるものへ導く。

 

楽園と、その喪失という作品の主題を前提に、映画の設計を立体的に捉えて、撮影手法すらも手段として、物語に落とし込むミゲル・ゴメスの創造性と意欲に感服。もちろん癖があるので映画ファン向きではあるけれど、観れる人は、是非観た方が良いでしょう。

 

『熱波』 7月13日(土)、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

『熱波』

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