『グランド・ブダペスト・ホテル』
STORY
ヨーロッパの超一流ホテル「グランド・ブダペスト・ホテル」の“伝説のコンシェルジュ”グスタヴ・Hは、宿泊客の夜の相手をもこなしていた。ある夜、彼の上顧客であるマダムDが殺害されてしまう。マダムDの莫大な遺産をめぐる騒動に巻き込まれた彼は、ベルボーイのゼロ・ムスタファと陰謀を暴こうとするが・・・
ウェス・アンダーソンという監督は、近年失われつつある映画作家のひとりだ。現代の映画界で独自のスタイルを保ち続けてコンスタントに映画を撮れる作り手はそんなに多くはない。たとえば、ウディ・アレンのように、毎年1本程度のペースで自分のやりたいようにクオリティを保ちながら映画を作ることは、ほぼ不可能に近い。しかし、飄々とした巨匠にはペースは及ばないが、平均的なクオリティ、そして独自スタイルという点においては、匹敵しうる力を持っている作家が、このウェス・アンダーソンだろう。
ウェス・アンダーソンの作家性という話をしだすときりがない。誰もが知るところでは、シンメトリーな画面構成、ドリーによる横移動、断面図、正面からとらえるカメラ、パン、黄色、ユニフォームなど、画面上ではわかりやすさが散りばめられている。衣装と美術にも恐ろしいほどの注意が注がれて出来上がったこの箱庭的世界が生み出すのはポップさと脱力感であり、そこに横たわる物語がなんであれ飄々とするのは必然である。そんな彼が通底して描いてきたのは、家族間の機能不全だ。この元にあるのは、おそらく自らの家庭環境とサリンジャーなのだろうが、このテーマから外れたことがなかった。つまり基本的にはどの映画もモチーフを変えつつも、家族の不完全性を飄々と描いていた。
そんなウェス・アンダーソンが新作『グランド・ブダペスト・ホテル』でチャレンジしたのは、ヨーロッパに沈んだ戦争の悲哀。作家シュテファン・ツヴァイク自身の物語であることは、本作のエンドクレジットにも明らかだ。彼の悲劇はどこかで確認していただければ幸いだが、つまり、これまでのウェス・アンダーソン同様、ポップで箱庭的世界観が全開で描写されながらも、これまでのウェス・アンダーソン作品とは違ったテーマを切り取ろうとしている。もちろん、師匠であり疑似的な親たるグスタヴHと、弟子であり疑似的な息子であるゼロという疑似家族構成を与えつつも、これまでのテーマからはそれているといわざるを得ない。そんな新たな世界の中で、大好きな映画作家たち、トリュフォーやキューブリックなどの手法と重ねつつ、同時にエルンスト・ルビッチなどの反戦映画を名手たちにヒントをうけながら描いたのが本作と言える。その結果、画面サイズは描かれる時代ごとに映画史と重ね合わせて変貌していく。
本作の後味は、従来のウェス作品とはまた違うものになっている。それは前述のテーマの変更によるところが大きいのだが、それでもなお戦争の悲惨さだけが苦みと共に滲み出るのではなく、ほんのりユーモアの香りがするのは、ウェス・アンダーソンが2時間近く与え続けた画面の効果であり、そのぼんやりした香ばしさのブレンドこそが彼の作家性と言えるのだろう。テーマは変われど、香り立つ匂いに浮かぶウェス・アンダーソン。最高傑作である。
『グランド・ブダペスト・ホテル』
“『グランド・ブダペスト・ホテル』” への26件のコメント
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『パスト ライブス/再会』
お問い合わせ/映画の天才委員会(中井圭・石田文子・田尻博美)
あいかわらず偏執的なまでの細部へのこだわりと、ミステリー仕立てのテンポのよいストーリーがよかった。
舞台であるシンメトリーなホテルの構造を活かした、垂直、水平方向にしか動かないカメラ(ズームも!)はうまいなあと。
ジェフ・ゴールドブラム演ずる弁護士コヴァックス、かっこよかったですね。
まるで人形劇や舞台劇のような、完ぺきに作り込まれた世界観!
そこで繰り広げられる、ハチャメチャでおかしく、どこか物悲しくもあるストーリー!
物語の世界に浸る楽しさを、たっぷり味わえる傑作です!
予告編を観たときから、ずっと観たいなぁと思っていた映画でした。
その理由、考えたのですが、絵の強さかなと。
2〜3分の数ある予告編で記憶に残る絵の強さ。
すこし絵画的な表現ですよね、
人間の目から見える絵と違った絵をみせてくれるところとか。
構図の作り方が、グラフィックっぽくて、だから、どこのシーンを切り取っても美しいです。
美術、絵の作り方とかMENDL’Sのロゴやパッケージ、冒頭の本の表紙にしても、
デザインに手を抜かないのが分かりました。
ハンガリーの方って、日本人と親戚のような性格、と聞いたことがあります。
ハンガリーの歴史もファシズムと関連があることを考えると、決して明るい歴史ではないけれど、アメリカ出身の監督がなんでハンガリーを舞台にしたのが気になります。
まだ1回みただけでは、噛み砕けない部分もあって、もう一度みたい映画です。
とってもカラフルで、チャーミングで、ノスタルジックでエレガント。
大好物だらけな映画でした。
可愛らしい映像と小気味良いセリフのやり取りでテンポよくお話は進みます。カメラワークも独特でお洒落。
遊び心溢れる言葉や演出に、笑ってはいけない場面のはずなのにクスリとしてしまいます。
終盤のとある場面では、音が大きいのを良いことに一人大爆笑してしまいました。
と思いきや、師弟の絆に胸をぐっとつかまれたり…
とにかく
楽しかった!!です!
エンドロールの音楽も可愛いなあ、と思ってみていたら、最後のほうでまた爆笑。ご覧の際は是非最後の最後まで。
極上のお菓子って、見て可愛くて どんな味なんだろうってドキドキしながらフォークを入れるんです。色がキレイ!とかいい香り!とか。
一口食べたときに広がる口福。
極上のお菓子は、一口目と二口目と食べ進むにつれて、歯触りや味覚に変化があってドキドキとワクワクが現れるんです。
最後の一口。
食べ終わったときに、凄いと思う。幸せに思う。
『グランド・ブダペスト・ホテル』は、五感を幸せにしてくれる映画でした。
あまりに幸せで シャンパンのロゼを開けて、見終わった余韻を可愛いパンフレットを眺めながら頂いてます。
できたら”メンドル”のコーティザン・オゥ・ショコラが食べたいっ!
じょう
面白かった。生身の役者がまるでアニメーション・キャラクターかのような錯覚を覚える、昔々あるところに・・・的おとぎ話。
導入から現在、過去、小過去、大過去とどんどん物語に深く入って行く重層的な構造。
映画のほとんどをスタンダーサイズで描いた画面構成はまるで、人間の紙芝居を見ているような感覚。または懐かしいテレビを見ているような。
エドワード・ノートンが画面の隅で顔だけ出してこちらを見るところとか、いろんなところの細部が可笑しいです。カメオ出演も相当あったような。
ライフ・アクアティック+ファンタスティック・ミスターフォックス。
全編ウェス・アンダーソンのセンスに溢れた、見れば見るほど新たな発見をしそうな映画でした。
何だか…どのカットも抜け目なく、面白かったです!
あとロビーボーイ、ゼロの無垢な目で笑い、時にグッときました。
チクショー!そりゃみんな出たいわな!
シンメトリーの構図、カメラワーク、フォントの使い方など、絵の細部1つ1つはもちろんですが、ドタバタする動きやジタバタする内容はアニメーションを観てるようでした。個性的なキャストの撮り方はポートレート写真のようですし、映画を観るというよりはウェス・アンダーソンの世界に浸るといった方がいいかもしれません。2回目はその表徴以外も楽しみたいです。
やー、独創的でした。
いままでのどの映画にも似てなくて
(個別の元ネタはあると思いますが)
これまでのウェス映画のどれとも違うような
そんな印象を受けました。
いつものように、完璧にディレクションされた世界を
「外」から眺めてウフフというだけでなく、
いつもよりも、なんだか人間臭のする登場人物に感情移入して
「内」からも高揚しました。
「いけー!」と拳にぎったりして。
アガサの登場からはとくにそうでした。
アガサいいですね。好きです、アガサ。
なんとなくメッセージめいたものも感じられ
そんなことウェス映画では初めてのような。
いろいろ濃くて、もう一回、観たくなりますね。
傑作でした。
(そういえばトレードマークのスローモーションが
今回なかったような。。見逃しただけですかね??)
完璧。画面の隅々まで、神経が行き届いている。
ホテル内の群像劇かと思いきや、伝説のコンシェルジュとしがない移民のロビーボーイの冒険活劇であった。
好みの俳優揃いで、ウハウハ。
回想からの回想。時間の飛ばしかたに鳥肌だよ、ホント。
俳優なら、誰でも出たいよ、この映画!
どのシーンを切り取っても絵になる映像は、小物、衣装、人物も含め、とても丁寧に作り込まれています。スタッフの作品に対する情熱と、観客に対して見せる愛情を深く感じました。エンドロールまで作り手の愛がしっかり詰まった映画です。衣装やインテリアはファッション好きの方が観ても楽しめる細やかさだと思います。ネコ好きの方は少しだけペルシャネコが出てきますが……そこはあくまでもフィクションということで。映像とストーリーを隅々まで楽しみたいので、もう一度観たい思います。
そーいえば昔から「ホテル」にまつわる映画が好きで、
それはきっと、ホテルって場所には、
色んな人のとても個人的な物語が凝縮している感じがあって、
ホテル映画はそれを覗き見る感じがワクワクするんだろうなあと。
このグランド・ブダペスト・ホテルで起きたひとつの事件をめぐる物語は、
スリルと、愛と、冒険と、スイーツが多めの、(ル・パナシュの香水も忘れずに)
覗き見のワクワクがとまらないお話でした。
エンドクレジットで流れるマンドリンに高揚し、
足が小躍りしてしまったのはぼくだけではないはず。
ウェス映画のハラハラドキドキは、(例え人の命が関わっていても)何だか微笑ましいんです。
今回は後半のスリリングなシーンが、もうおかしくって。
銃の撃ち合いで笑っちゃう映画もそうないですよね。色んな意味で心拍数が上がりました。
スイートなのにユーモアがあって、感性を刺激してくれる相変わらずの徹底した世界感作り。
でも自己満足のオシャレ映画に仕上がっていないのは、その人間模様がしっかり見えてくるから。
素晴らしい師弟関係、コンシェルジュ達の驚異のネットワークは、ちゃんと主人公グスタヴの人望が描かれているからで、ふと心が温かくなりました。
『アデル ブルーは熱い色』のレアちゃんが出ていたのに気づいたのは観た後。
ティルダ・スウィントンも文字通り化けていて、残ったのは彼女の気品のみ。
こんな風にウェスワールドの登場人物になれるなら、演じる側はその中で動く自分を見てみたいはず。
ここがああなって、こうなって・・をもう一度紐解きたいので、また映画館で観たいと思います。
どのシーンもポストカードにしたいくらい完璧に可愛かった!
冒険活劇なのにユルいアクション。豪華で精密なのにマヌケで可愛い美術。バカバカしいのにほろ苦いキャラクター。ドタバタコメディなのに文学的。しかも時間と空間と画面サイズが万華鏡のように展開する。こんなに不思議なバランスの世界観は他では体験出来ない。至福。
大事件が起きてるのになぜかコミカル。時に立場が逆転する、愛あふれる師弟関係。優秀でダメで口の悪いかわいいオヤジ。ピュアできらめく子供たちの恋愛。ピンクが印象的な、ゴージャスでスイートな映像美。
と、期待通りのリッチな映画でしたが、いつもと違うのは、少しばかりの切なさが残るところか。それがこの作品に賞をもたらしたのかもしれない。
とにかくキャラクターが魅力的すぎて、作品ごとに推しメンが出来てしまうウェス・アンダースン作品ですが、今回はロビーボーイのゼロ少年だろうか。。悩むところです。
まずお話は期待通り文句無く面白かったです。
私はどうしても登場する建築とかに目がいってしまうのですが、ホテルの外観は荘厳なシンメトリーでミステリアスなオーラを放ちつつ、色はこの様式の建築ではどこにも存在しないであろうピンク色で塗られていて独特の世界観を作り出していましたし、ウェスの遊び心が感じれました。
3月にオランダを旅したときにアムステルダムの「LLOYD HOTEL」というところに泊まったのですが、シンメトリーの美しい外観はまさにこのホテルと同じ感じで(ピンクではないですが)、移民の宿泊所→ナチス統治下では収容所→戦後は刑務所→今はホテル、、、という時代の波に翻弄された歴史が、後半は軍の宿泊施設になってしまった「グランド・ブダペスト・ホテル」となんだか重なる部分を感じました。
グッズ欲しい!
あるかどうか分からないし、多分ないけど…
グッズを沢山販売して欲しいほど目に映る全てが可愛くてツボでした。(笑)
そしてピンク色のグランドブダペストホテル!!!
本当に可愛い!!!
メンドル食べたい〜!!!
ロケ地や小物がメルヘンちっくなのとは逆に、ストーリーは軽く結構グロいのもいい!!!
ティルダスウィントン✖️ドイツの古城コラボはティルダ好きにはたまらないです!
なんだか待受にしたいシーンが沢山ありました。
またもや心に残る映画を、ありがとうございました。
本作は恐ろしく濃厚な映画である。
それはまるで劇中に登場するMENDL’Sのケーキのようだ。
あたかも悲劇と喜劇と知性のレコード盤をスクラッチしたような、その激しく濃厚で気が狂いそうな瞬間の続く物語をシークエンスごとに代弁し理解と安堵を何度ももたらしてくれたおかげで私は試写室で発狂せずに済んだのである。ヨーロッパのケーキの甘さ、濃厚さはこの映画のように官能的なのだ。
ところで、これは知人の受け売りだが衣装担当のミレーナ・カノネロは『時計仕掛けのオレンジ』やソフィア・コッポラ版の『マリー・アントワネット』も手がけていたと聞いて納得。
ああ、ケーキを食べにいきたい。
ジオラマ作りが大好きな魔法使い、気に入った役者は小さくしてストラクチャーの前に置いてみる。嫌がるどころか嬉々として動き回る役者達、魔法の順番を待つ人は後を絶たない。
※ 中井さん及びスタッフの皆様、試写会にお招きいただきありがとうございました。
ストーリー展開、映像、時折入る茶目っ気の効いた演出、
全てにおいて上質だと感じました。
細やかで隅々まで行き届いたその仕事っぷりは、
正に高級ホテルに宿泊したかの様な、
なんとも贅沢な余韻を味わえました。
食事を盛る器だったり、
ノートや名刺の紙質だったり、
用途プラスアルファの何かを求める人にはオススメしたい映画です。
妥協の無い画面作りや構成、そしてテンポの良さ。
撮影技術やアニメーション的な要素に引き込まるかと思いきや、
師弟愛やせつなさに強く心が動かされた作品。最高!
期待を3周ぐらい上回わった満足感があった。
遠い国のおとぎ話みたいなメルヘンでキュートな世界観、そこにテンポの良さがあいまって、最後まで飽きることなく楽しめました。
ストーリー展開もさることながら登場する美術品、調度品、服装に至るまでのディテールにおいても見どころ満載で、見るたびに新しい発見が得られそうな、宝探し的要素もこの映画の魅力だと思いました。
それにしても全体的にコミカルな雰囲気を漂わせつつも、一方で暗い不気味な影のようなものも並走しているような、何とも言えない感覚を持つ映画だと思いました。
公式サイトによると、監督が今回の映画製作において影響を受けたという作品があるようで、そちらも気になります。
美しくも怪しい箱庭で繰り広げられる喜劇と悲劇、そして美味そうなメンドルのお菓子の味に想像をめぐらせながら、しばらくは余韻に浸りたいと思います。
独特のテンポの良さと世界観に
一気に引き込まれました。
脱獄からの雪山シーンは、
なんだかトムとジェリーと
チャップリンを思い出したりして。。ドキドキしながら、
ニヤニヤが止まりませんでした。
おもしろくて、かわいくて、でもなんだか切ない、大好物な映画でした。
いつもありがとうございます!
いやはや、こんな方の新作を早々と拝見できるとは。ありがたいことです。彼の映画は、毎回、好きだなあ、と思う。温度の低い会話と、あまりに印象的な画づくりと。僕のアタマの中では、「アンソニーのハッピーモーテル」以降、いろんな画がごちゃ混ぜになって、記憶されています。同じ役者さんが多いし。あと、方法論的に、最近特に多いのが「移動」撮影。横移動とか、上下とか、俯瞰とか、回転やPANも。言葉を軸にしての、そういう様式が顕著なんですが、今回、すこしだけ、飽きたかも、とすこしだけ思いました。設定が時代物だからかな。みんなが出たがって、みんなが、その映画のカタチにハマりにいっている、気がしました。でも、ホント楽しい、映画です。スキーの画が一番好きでした。ちなみに、ブダペストは僕の一番好きな街です(ロケはなさそうでしたが)。
面白かったー!!
マンガみたいなドタバタ大冒険に笑ったり、
サスペンス的展開にドキドキしたり。
ふたり(あっちとこっち)の会話に切なくなったり。
色んなものがテンポ良くかけぬけていって…
観終わったとき、なんだか胸がいっぱいに。じーん。
(でもそんな感傷的な気分は、最後のゆかいなあいつに一発で吹き飛ばされる)
ウェスの映画は大抵好きだけど、こんなに前のめりな気持ちで観れたのは初めてかも。
今までの作品は入り込みすぎず一歩引いたところで観ていたのに。
美術も相変わらず変態的に凝ってて、素晴らしかったです。
もう一度映画館に観にいって隅々まで堪能しにゆかなきゃ。
相変わらず細部に至るまで凄いこだわり。
いつものように全てがコントロールされていて、タメ息が出る
最初の十数分は背景やら衣装やら色合いに釘付けになってアレコレ見て
ストーリーがよくわからなくなってしまうのもいつもの事
今回の絵は特にアメコミ感が強かったかなあ。終わった後2,3時間ボーッとしてしまった。
そしてここ数日中央ヨーロッパ及び東ヨーロッパの民族音楽など聴いている
エンディングで見た&聴いたバラライカの影響である。
ホントいろんな意味で僕にはゴージャスな映画