『6才のボクが、大人になるまで。』
STORY
僕はメイソン(エラー・コルトレーン)。ママのオリヴィア(パトリシア・アークエット)と姉さんのサマンサ(ローレライ・リンクレイター)と一緒にテキサス州で暮らしている。ママがおばあちゃんのいるヒューストンへ引っ越すと言い出したのは、僕が6歳のときだった。もっといい仕事に就くために大学へ行くと決めたからだ。友達と別れたくないサマンサは引っ越しに大反対。僕も、ママと離婚してアラスカに行ったパパが僕たちの居場所を探せなくなるのではないかと心配だった。でも1年半ぶりにアラスカから戻って来たパパ(イーサン・ホーク)は、ちゃんとヒューストンにやって来て、僕とサマンサをボーリングに連れて行ってくれた。おかげで僕たちは宿題もせずに楽しい時間を過ごしたけれど、ママはそれが気に入らなかった。2人が家の外で言い争う姿を僕たちは窓から見ていた。
本作は、撮影に12年をかけて、役者たちの成長とともに撮られた劇映画だ。
かつてフランソワ・トリュフォーが“アントワーヌ・ドワネルもの”として、成長するジャン=ピエール・レオーを同一の主人公として、5本の映画を撮ったように、あるいは、マイケル・ウィンターボトムが5年の歳月をかけて、収監された父と残された家族の様子を描いた『いとしきエブリデイ』を撮ったように、この映画もまた、1本の作品に信じられない時間と労力を費やした。
作中では時代に応じて、登場する音楽や政治やApple製品も変わっていく。当然ながら、役者たちも12年分の歳をとる。6才の少年は18歳になり、映りこんではいないがもちろん作り手も歳をとっていく。
何故わざわざ12年もの月日をかけて、実際の俳優の成長とともに映画を撮るのか。
僕たちは時間を見ることができない。時間とは不可視の存在である。映画が奇跡を起こすとき、目に見えない何かをスクリーンに焼き付ける。確かに積み上げられた歳月だけが、画面の中に映る彼らに、真の家族として感情移入を可能にする。確かに積み上げられた歳月だけが、映っていない時間の行間を想像させることができる。
この映画は、家族の物語であり、6歳の少年が18歳になるまでを描いている。しかし、この映画は、決定的な事件を描くことはない。人生の長い時間の流れの中、そこを生きる家族には、いくつも事件は起きるだろう。だけど、それらの事件をドラマティックに扱うことを、この映画は徹底的に拒絶する。決定的な喜びも、決定的な悲しみも、顕在化することはない。
なぜならこの映画の主題が、もっと大きな、はるかに大きなものだからだ。
この映画の主人公は、時間そのものなのだ。
雄大に確実に流れる時間の中に、人の営みがある。僕たちは、たゆたう時間の中で、今この瞬間を積み重ねる。良いことも、悪いことも、楽しいことも、悲しいことも、全ては静かに積み重なる。時間はそれらを全部受け止めて、人は、家族は、今を生きていく。少しずつ変化していく少年と家族の様子が、時間の土台の上で綴られていくのだ。華やかでもなく、絶望でもない、何気ない日常を。
そして、映画が終わるころ、観客は、決して見ることのできない時間そのものを見つめているだろう。
だからこそ本作は、リチャード・リンクレイターの最高傑作であり、年間ベスト級の一本なのだ。
(中井圭/映画解説者、「映画の天才」代表)
『6才のボクが、大人になるまで。』
“『6才のボクが、大人になるまで。』” への17件のコメント
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『パスト ライブス/再会』
お問い合わせ/映画の天才委員会(中井圭・石田文子・田尻博美)
12年に渡り撮り続けたという撮り方の斬新さもすごいのですが、それよりも純粋に4人の家族の成長、そしてメイソンとサマンサの成長に見入ってしまう3時間でした。
彼らの成長を親戚のオジサンのように客観的に見ることもできましたが、母オリヴィアの離婚や新しい父の暴力など胸が締め付けられるような青春時代を過ごすメイソンとサマンサや、嵐のような毎日を過ごす母オリヴィアの苦闘に感情移入してしまいました。
私事ですが、私は奥さんと2歳の娘の3人家族で、奥さんは不規則な仕事をしています。娘を育てるのは、私と奥さんで一緒にというより、交代でという感じです。家族3人で過ごす時間も少なくてこれは娘にとってどうなんだろうと悩んだりもします。奥さんも子育てと仕事の両立が大変そうですし、それでケンカすることもあります。いつまでこの生活が続けられるかという、漠然とした不安を抱えながら生活しています。
メイソンの家族に比べれば平和なのかもしれませんが、母オリヴィアの苦闘は苦しくても歯を食いしばって前を向く事、父メイソンSrのダメなところ満載だけど楽天的で要所要所で子供たちに良い示唆を与え続けるところ、、、子を持つ親として学ぶところがすごく多かったです。
エンドロールが流れ始めた瞬間の幸福感がまだ全身に残っている。
長い時間を積み重ねることでしか描くことのできない、
優しさに満ち溢れた165分の12年。
いつか自分に子供ができて、
その子が思春期を迎えたとき、この映画を並んで観たいと思います。
大傑作。映画の力、まだ信じれる。
フィクションでありながら、リアルに一人の少年(とその家族)の成長が見られるというとんでもなく希有な映画、こんなものは後にも先にも、この1本だけでしょう。
アメリカならどこにでもありがちな話を淡々と2時間45分、飽きることはないどころか、見終わってすぐ最初から見直したくなる。すごいものを見せていただきました、ありがとう。
中学生(かな?)のメイソンの愛読書がヴォネガットだった、なんかすごい納得です。
油断してたわけじゃないんですが、
気がついたら急に涙がこみ上げてきてました。
手短で印象的な台詞がたくさんあったからかもしれません。
心を揺さぶられたのは、やっぱり少年たちに降りかかってくる対立や葛藤だったり成長していく姿なんですけど、主人公の少年に感情移入していけばいくほど、少年目線で12年分を追い続けた母親と実父の関係性を眺めてしまい、二人のちょっとした距離感の変化にも切なさを覚えましたし、そこに、かなり大々的なカタルシスを感じました。
あと序盤のシークエンスでは各シーンの切り方にも絶妙な緩急があって、じわじわと笑いがこみ上げてきたりもして。あの間も好きでした(笑)
鑑賞後の余韻として言うと、これまでの人生を反芻する機会を与えてくれて、両親や自分の成長を見守ってくれている人たちに思わず感謝したくなる、そんな作品だと思います。
ところで未公開になったシーンてどのくらいあるんですかね。
それもすごく気になっています。
ありがとうございました☆
世の中にはおもしろいとかおもしろくないとか、個人的な好き嫌いを超えて、経験として絶対に観ておいた方がいいものがあると思います。去年で言うと「かぐや姫の物語」や「ゼログラビティ」がそんな映画でしたが、この「6才のボクが、大人になるまで。」も、とにかく観た方がいい作品です。6才の少年が18才になって親離れするまでを、実際に12年かけて、同じ役者で劇映画として描く。この狂気の沙汰と言っていい企画(誉め言葉!)を実際にカタチにできただけでも空前絶後だし、ほとんど奇跡に近い偉業なんじゃないでしょうか。監督や俳優はもちろん、製作会社などプロデュース陣にも最大の敬意を表したいです。終盤での「seize the momentではなく、moment seizes usなんだ」「時は途切れない」というセリフ(記憶で書いているので不正確です。ぜひ劇場で確認を!)に映画のテーマは集約されていて、日常の些細な一瞬がすべて未来へとつながっていくという、字にすると陳腐になってしまうことを圧倒的なリアリティで描けているのは、12年間ガチで撮ったからこそです。個人的には、今小さな子ども2人を育てている真っ最中なので、オリヴィアや父メイソンの子育てを見て共感したり反面教師にしようと思ったり、とにかく他人事ではなく自分の物語として観賞してしまいました(子ども達にも将来、思春期の修羅場を迎える前に見せてあげたい)。映画の力や可能性をあらためて思い知らされる傑作です。
こんな映画見たこと無かった~!!!
主人公の家族が、そして6歳の少年が映画の中で本当に成長していくのである。
ドキュメンタリー的要素をバックグランドにして人生が描かれていく
自分自身の人生と自分の7才の息子と物語がリンクしてどんどんと映画に引き込まれていく
映画終了後、まさしく映画の中で人生を共有してきたかの様な錯覚になった。
人生とは?家族とは?最高な映画でした。
一人の少年とその家族の人生を観た。
アメリカの文化を知った。
今という時代を感じた。
家族の絆を想えた。
とにかく、この映画が創られて公開される瞬間、今を生きてて観る事が出来る私は、かなりラッキーだと思った!
貴重な映画、有難うございました。
こんな映画みたことない。
映画内の時間経過とリアルな時間経過を重ねて、
12年に渡り、断続的な撮影を続けるという奇跡の記録。
フィクションドラマとしての完成度の高さを支える
パーフェクトなキャスト陣。
「時間」というとらえどころのないものを
ここまで見事に捕らえることに成功した映画をみたことはありません。
リアルに成長した身体の存在は、何よりも雄弁で
その身体から、精神の成長も透けて見えた気がしました。
「時間」によって人は変わる。良くも、悪くも。
というか「時間」をどう過ごしたかでしか
人は変わることができないんだなーと思いました。
「時間」を大切に過ごした人には祝福があった。
配管工のエピソード、あそこ泣けたな。
大好きです。すばらしかった!
映画という限られた時間のなかで、人はどれだけを「生きる」ことができるのか。
「瞬間と永遠」という映画が抱えている最大の命題に、正面からぱーんと答えてしまった作品。
こんなやり方があるなんてびっくりだよ、リンクレーターさん。
アメリカ南部の普遍的な家族と
青春を疑似体験したような感覚に陥りました。
あとアメリカなのに日本のわびさびに通じるものを感じたり。
この映画に出会えたお陰で、
また映画が好きになりました。
『映画の天才』ありがとう!
そうそう鑑賞前には必ずトイレに行ってくださいね。
見逃したくない一瞬で出来た、2時間45分です!
両親の離婚、将来の夢、恋。生きていれば起こりうる様々な日常的な出来事が、決してドラマティックではないけれど、大切に紡がれた作品でした。
12年間、同じメンバーで家族を演じ続けたキャストの皆さん。その台詞や動きの一つひとつには非常にリアリティがあって、偽りではない、たくさん愛を感じ取ることができました。
キャストのみなさん、スタッフのみなさんの苦労は計り知れませんが、一生の宝物になるんだろうなあと。羨ましいです。完成した時の達成感は他の何にも代え難いものだったでしょう。
去年公開されたゼロ・グラビティ同様、映画にしかなし得ないとんでもない体験をさせていただきました。ありがとうございました!
12年かけて撮影された映画、狂ってて最高です!
シーンが変わるごとに子どもたちが成長し、
顔がすこしずつ大人びていくさまに、目を見張りました。
自分が家をでてきたときのことを思い出しました。
親の心、子知らずですね。そして母は強し。
メイソン父が人として成長していく過程がなんだかグッと来ました。
映画の「嘘」を飛び越えた大作映画です。
たとえばある人物の幼少期と青年期の役を異なる役者が演じることについて、我々はなんの違和感もなくその二人は同一人物であるとみなします。
これは当たり前のことですが、なぜ当たり前かを考えてみると、それは「モノづくりには制作時間という制約事項があるということ」を常識として処理してしまっているからかもしれません。
しかしこの作品はそんな常識を根底から覆すかのように、12年もの歳月をかけることで、まるで時間的継ぎ目のない進行を実現しています。
それは時間という糸で丁寧に紡がれた滑らかなタペストリーを思わせます。
そこに浮かび上がったものは、ゆっくりと経過してゆく「時間」そのものでした。
時間はスクリーン全体を大河のごとく、その一滴一滴に小さな物語を秘めながら悠然と流れていきます。
ラストシーンが印象的でした。
12年にわたって語られた長大な物語はそこでいったん区切りを迎えるけども、その後も小さなイベントを繰り返しながらも、まだまだ続いていくであろう人生の後半戦を想起させます。
この継ぎ目のない物語が表しているものは、何気ない日常の姿なんだと思いました。
充実した、本当に愛しい時間でした。
今まで生きてきた事、これから生きていく事を愛せるような作品。
ちょっとこれだけ書くと危ない映画みたいだけど、本当にそうなんだよ!
ストーリーは12年というリアルな年月を描いているので当然断片的に進んで行くんですが、観終わって2日経ち、一緒に観に行った友人とこの12年間の描かれてない時間を想像し、埋め合わせるのも凄く楽しかった!
特に男だけで廃墟みたいな隠れ家で酒を飲むシーンが格別(男はよだれものです)。
自分にもあるイタいけど懐かしい思い出が脳内に噴出しました。
あの前後なんかも自分の経験を踏まえて想像し出すと止まりませんよ。
また親という人生においてのでかい存在にも改めて気付かされたし発見がありました。
いろんな教育があるとは思いますが、この家族の両親がいかにして社会に子供を送り出すか、
これもこの映画の大きな見どころでした。
今思うと、とても大切な事を体を張って教えてくれたんだな、そして自分は子供ができた時どうやって時間を共にし社会に出すのか、そんな事を映画を観つつも考えてしまいました。
この映画はきっとこれから歳をとってもどこかのタイミングで観るんだと思います。
傑作というか、アルバムみたいな感じです。
映画は作り物ですが、この映画は作ってるとは思えないような作り物でした。
”ボク”の成長を魅せるようなタイトルがついているけど、実はボクの周りにいる”大人”の成長がこの映画の見所なのでは。
少年から青年への成長は目覚ましい様で深い所では大して変わらないものだったのかもしれません。それよりも大抵の束縛から開放された大人の成長というものは飛躍的で同時に凶暴にすら感じました。
12年間かけて制作されたある家族の話。時間が変えるもの、変えないものを静かに捉えながら明るくユーモアに溢れたリズムで進む引力ある映画でした!
3時間ある大作でしたが、無理のないテンションで見る事が出来て、最後にじわじわとノスタルジックな感覚が訪れる作品。
そこにはリアルな12年間の記録がぎっしりと詰まっていて、ドキュメンタリーではないけれど、本当に人が成長してく様が見れるのです。
この映画は人生の中の一部にしか過ぎないし、その後の人生は続いて行くのだけれども見るものに素晴らしい余韻と想像力を与えてくれる。
12年間俳優さんが変わる事無くまた、物語のテンションがぶれる事もない。
大切にじっくりと温めながら作られた作品だとまざまざと感じる事が出来て、
制作者の愛情と根気には目を見張る物がありました。
素敵な作品を見れて幸せ。ありがとうございました!
12年間を通して同じ役者が演じ続けるという、実に贅沢な映画。家族のドキュメンタリーじゃないのに同様な興味が沸いて、目が離せない。母親、こども達、前夫、祖母、それぞれの関係性が変わっていく様は人としての成長なんだろうと。
アメリカと日本の違いはあれど、自分の人生をふりかえってるようなこそばゆい場面も沢山!。
ラストの旅立ちのシーンは、その12年間あっての素晴らしい場面でした。